放射性物質をふくむ汚染水(処理水)を海洋に放出するべきかどうか―海洋への放出には反対の声もあげられている

 汚染水を海洋に放出することに反対する。ツイッターのツイートなどではそうした声が言われている。

 福島県原子力発電所の事故によって、放射性物質をふくむ汚染水がたまりつづけている。この汚染水を科学技術によって処理して、中に含まれている放射性物質をとり除く。その処理水を海洋に放出することを、与党である自由民主党の政権は決めた。政権がそう決めたことは正しいことなのだろうか。

 たしかに、汚染水をためつづけるのはずっとできることではなくて、ひとつの説としてはあと一年くらいでためておくための場所が一杯になってしまうという。だから汚染水を科学技術によって処理水にして海洋に放出することは一定の合理性があるのだと政権は見なしているのだろう。

 汚染水を処理した水を海洋に放出すると、風評の被害がおきる。それが危ぶまれている。そこから処理水を海洋に放出することに反対の声があげられている。風評の被害がおきることはありえることであり、それがおきることで地域の漁業の関係者などに大きな害がおきることになるから、ないがしろにすることはできづらい。

 政権が処理水を海洋に放出することを決めたのは、いっけんすると科学の合理性があるかのようでいて、少なからぬ引っかかりをおぼえるところがある。個人としては政権が決めたことには引っかかりをおぼえるところがあり、それはなぜなのかといえば、政権に科学のゆとりが欠けているうたがいがあるからだ。

 政権には政権の利害関心がある。そのいっぽうで、処理水を海洋に放出することに反対の声をあげる人たちには政権とはまたちがった利害関心がある。おたがいの利害関心がちがっているので、そこから処理水をどのように処理するか(海洋に放出するかどうか)についての対立つまり政治がおきているのだ。

 処理水を海洋に放出することに反対の声をあげる人たちがもつ利害関心があり、その枠組み(framework)は政権がもつ利害関心による枠組みとはちがっている。反対の声をあげる人たちは、漁業の関係者をふくんでいて、生活がかかっているために、切実なのである。政権がもつ枠組みには、生活がかかっていることからくる切実さが欠けていて、そこをとり落としているのはいなめない。

 枠組みのちがいがある中で、政権がもつ枠組みは正しいのかといえば、かならずしもそう見なすことはできないところがある。自民党は与党ではあるが、すべての国民をくまなく代表しているとはいえず、国民のうちの一部分しか代表していない。自民党が政党(political party)だからである。国民のうちの一部分(part)を代表しているのにすぎないから、すべての国民の声をすくい上げているのではない。

 原発についてを科学によって中立に見なしているのが自民党の政権だとは言えそうにない。政権がもつ枠組みはゆがんでいるうたがいがあるので、原発についてまちがった意思決定が行なわれる見こみはそれなりにある。そこが引っかかる点である。

 政権が決めた処理水の海洋への放出にもそれなりの科学の合理性があるのだろうが、そのことについてを改めて見て行くようにしたい。政権がほんとうに国民のすべてにとってよくはたらくような政治の決め方や進め方をしているのかどうかには少なからぬ疑問符がつく。そこをうたがうことができるので、政権が言うことをそのまま丸ごとうのみにはできづらい。

 たとえいっけんすると政権が決めた処理水の海洋への放出が科学として合理性があるかのように見なせるのだとしても、ほんとうに国民のすべてにとってよくはたらくような全体の最適(global optimal)になるようなものごとの進め方だとは言えない見こみがある。政権が決めたことは部分の最適(local optimal)にすぎず、部分の最適のわなにはまりこむものである見こみがある。

 国民のすべてにとってよくはたらくようにして、よりよい最適化をなすためには、人々が自由に色々な声をあげられるようにして、政治のものごとができるだけていねいに慎重に進められることがいる。政権は科学のゆとりが欠けているように見えるのがあり、そこが危ぶまれる点だ。

 処理水をどのように処理するかは、原発にまつわることがらだが、原発は日本の社会がかかえる負のところである呪われた部分だといえるものだ。自然の災害が多い地震国である日本にとって原発は危険性が大きいものであり、科学の技術でそれを制御できるかどうかは確かではない。日本の政治は無責任の体制になっているために、いざとなったさいにだれが責任をとるのかが定まっていない。

 参照文献 『逆説の法則』西成活裕(にしなりかつひろ) 『ブリッジマンの技術』鎌田浩毅(ひろき) 『思考の「型」を身につけよう 人生の最適解を導くヒント』飯田泰之(いいだやすゆき) 『小学校社会科の教科書で、政治の基礎知識をいっきに身につける』佐藤優 井戸まさえ 『現代思想を読む事典』今村仁司