陰謀理論の広がりと、倫理としての悪の遍在性―善人と悪人にかならずしもきれいに分けづらいところがある

 なぜ社会の中で陰謀理論をよしとする人が少なからずおきてくるのだろうか。それについてはさまざまな要因があるのにちがいない。

 すべてが悪いものではないのはあるだろうが、その中で社会に害をもたらすような陰謀理論がよしとされることによって、社会が悪い方向に向かっていってしまう。悪いできごとが引きおこされてしまい、犠牲となる人がおきてくる。

 学者のエーリッヒ・フロム氏は個人にだけではなくて社会においても生の欲動(eros)と死の欲動(thanatos)の二つがあるとしている。そのうちで社会において死の欲動が高まることによって悪いことが引きおこされてしまう。社会が悪い方向に向かって行く。

 社会の中で安心と安全や正義と公正や自由が十分にあれば生の欲動が保たれる。それらが損なわれると死の欲動が高まって行く。社会の中で死の欲動が高まって行くと最悪では戦争が引きおこされることになる。

 社会の中で死の欲動が高まることによって戦争が引きおこることになる。それにいたる中で、そこにいたるまでのあいだに行なわれることとして監視社会化と格差の拡大と個性の否定があるとされる。これらのことが行なわれることによって平和が損なわれやすくなり、戦争がおきやすくなって行く。

 個人において死の欲動が高まると不健康な自己決定が行なわれることになる。自分を自分で否定して死ぬことを選んでしまうことがある。社会においてもそれと似たようなことがおきると言える。社会が自分たちで自分たちを否定するような不健康な集団の決定を行なう。

 経済においては市場原理によりすぎると格差が広がって行く。不平等さがおきて差別がおきてそれが固定化してしまう。市場原理によりすぎるとそうなるのがあるから、それを改めるようにして贈与原理によって行く。市場原理がきつくなりすぎるのを改めるようにして、社会が不健康な自己決定におちいるのを防いで行く。

 資本主義の市場原理が巻きおこしてしまっているいろいろな悪があるとすると、それらをとり上げるようにしてみたい。格差が広がることは一つの悪だが、それだけではなくて自然の環境の破壊や自然の資源の浪費もまたある。いろいろな倫理における悪があるから、それらをくみ入れられるとすると、まったくもって善人だと言い切れる人はいづらい。

 グローバル化によって市場原理が世界をおおっているのがあるから、その中に個人は避けがたく巻きこまれてしまう。そのことをくみ入れられるとすると、陰謀理論の外にこぼれ落ちている倫理の悪はいろいろにある。陰謀理論がとり落としている倫理の悪がいろいろにあるから、陰謀理論の中で善人だとされている人がいるのだとしても、客観としてそうであるのだとは言いがたい。善人だとされていても倫理としての悪を含みもつ。ただ道を歩いているだけでも土の中の虫などの小さい生きものを踏み殺してしまっている。

 一つだけではなくていろいろな倫理の悪があることをくみ入れられるとすると、それぞれの人がもっている色々な不正義の感覚が自由におもてに表出されるようになればよい。不正義にはいろいろなものがあるのだから、陰謀理論がすくい取れていないものがさまざまにあるはずだ。どの不正義がより重みを持つのかは人それぞれの見かたによってちがってくるから、いろいろな見かたがなりたつ。

 まったく非の打ちどころがないほどの善人はいづらいのがあり、多かれ少なかれ倫理としての悪をなしてしまっている。それがあることをくみ入れられるとすると、陰謀理論の中で善人と悪人をはっきりと分けられるのとはちがい、現実においては基本としてみなが倫理としての悪をなしている。そのていどのちがいによっている。グローバル化の中で市場原理にみなが巻きこまれてしまっているから避けがたくそうなってしまうのがある。

 善と悪や正義と不正義のあいだの分類線が揺らいでいる。はっきりときれいに二つに分けづらい。陰謀理論の中でははっきりときれいに二つに分けられるのだとしてもその外では分けづらいのがあるから、中では善人でも外では何らかの倫理としての悪をなしているうたがいが濃い。

 価値が反対のものに当たる善と悪や正義と不正義はそれぞれが客観のものだとは言いがたく主観によっている。正の価値と負の価値とは客観に定まるのではなくて主観によっていて、絶対とはいえず相対性による。価値は相対性によっているのがあるからちがう価値をもつ弱者や少数者にたいして贈与原理によって承認していって配分をして行く。承認の正義と配分の正義をおこなって行く。社会をよくしていって健康な集団の決定が行なわれるためにはそれらがあることがいるのだと見なしたい。

 参照文献 『悪の力』姜尚中(かんさんじゅん) 『ポケット図解 構造主義がよ~くわかる本 人間と社会を縛る構造を解き明かす』高田明典(あきのり) 『事例でみる 生活困窮者』一般社団法人社会的包摂サポートセンター編 『十三歳からのテロ問題―リアルな「正義論」の話』加藤朗(あきら) 『正義 思考のフロンティア』大川正彦 『現代思想の基礎理論』今村仁司 『思考の「型」を身につけよう 人生の最適解を導くヒント』飯田泰之(いいだやすゆき) 『世界の陰謀論を読み解く』辻隆太朗(りゅうたろう) 『悪と暴力の倫理学熊野純彦、麻生博之編 『憲法が変わっても戦争にならない?』高橋哲哉斎藤貴男編著