アメリカのドナルド・トランプ大統領が言っていることはそのすべてがまったくもって正しいことなのだろうか―なにが真のことなのかと西洋の弁証法(問答法)

 アメリカの新しい大統領になる予定のジョー・バイデン氏はにせものやいんちきであり、ドナルド・トランプ大統領こそが真のアメリカの大統領なのにほかならない。トランプ大統領を強く支持する人たちの一部からはそうした声があがっている。

  アメリカにおける真の大統領としてふさわしいのははたしてジョー・バイデン氏なのかそれともトランプ大統領なのかのどちらなのだろうか。真のものは何なのかといったことになると、そこでいることになるのは西洋の弁証法(dialectic)だ。弁証法によって問答をすることがいる。

 トランプ大統領が言っていることがそのまま真であることになると、弁証法において正と反と合がある中で、正つまり合となってしまう。そこには反が欠けてしまっている。正と反とのあいだで問答をしないと弁証法によって問答をしていることにはならない。

 いそいで正つまり合としてしまわないようにして、たとえトランプ大統領が言っていることだからといってそれをそのまま真であるとはしないようにしてみたい。科学のゆとりをもつようにして、正と反とのあいだで問答をするようにして、弁証法によるようにしたい。

 政治の権力者が言っていることだからといって、その言説がまちがいなく客観のものだとは言えそうにない。政治の権力者の言説をふくめて、さまざまな言説は主観による。

 さまざまな言説はどれもが主観であることをまぬがれないので、まったくもって真の言説とまったくもって偽の言説には分けづらい。真の言説と偽の言説とのあいだの分類線は揺らいでいる。

 まちがいなく真の言説を言っていて完全に客観なのがトランプ大統領の言っていることではない。おそらくそう見なせるのがあるから、トランプ大統領が言っていることには偽のうたがいがあり、主観性をまぬがれていない。そこから、トランプ大統領が言っていることをそのままうのみにはできづらいのがある。

 現実そのものをそのままあらわしているのであればトランプ大統領が言っていることには完全な客観性があることになる。それはじっさいにはできづらく、政治の権力者が言うことは虚偽意識であるおそれが小さくない。虚偽意識であることがしばしばあるので、現実そのものをあらわしているとは言えそうにない。現実そのものから多かれ少なかれ離れてしまっている。

 現実そのものをそのままあらわしているのではなくて、それを編集して取捨選択した上であらわされることになるのが一つの言説だから、完全に客観のものだとは言えそうにない。ひろわれているものがある一方で切り捨てられてしまっているものがある。切り捨てられてしまっているものがぼう大にあることから、その切り捨てられてしまっていることの中に正しいことがあるのだとすれば、言説がくつがえされて反証されることになる。

 言説がくつがえされて反証されることになるのは、その言説がひろっているものではなくてその逆の切り捨ててしまっているぼう大なことの中に正しいことがあったことになることをあらわす。一つの言説がひろっているものが正しいのであれば実証されることになるが、そこで見すごされることになっている反証に目を向けるようにしたい。

 まったくまちがうことがない無びゅう性によっているのではなくて、まちがうことがある可びゅう性によっているのが人間の行なうことだ。まちがっていることがあることから、他からの批判にたいして開かれていることがいる。他からの批判に閉じてしまっていると弁証法において正つまり合となってしまい、問答がなりたちづらい。問答することは一切いらないといったことになって、政治の権力者が言っていることがそのまま真だとされることになる。そこでとり落とされているのは政治の権力者が言っていることが偽であるおそれが小さくはないことだ。

 何が真であるのかにおいては、政治の権力者が言っていることをそのまま真であるとはしないようにしたい。あらゆる言説は主観であることをまぬがれないのがあるから、たった一つの言説だけがよしとされるのではなくていろいろな言説がさまざまに言われることがいる。そのうちのどれが正しいものなのかはにわかには決めることができづらい。

 さまざまに言われている言説のうちでそのどれもがまちがいを含んでいるおそれがあるから、どれか一つだけを完全に正しいものだとしてしたて上げたり基礎づけたりすることはできづらいのがある。真のものと偽のものとのあいだの分類線は揺らいでいるのがあるから、まちがいなく真のものだとして閉じてしまわないようにして、他からの批判に開かれていることがのぞましい。

 参照文献 「求道(フィロ=ソフィア)と智慧(仏智)の関係 驚くことの意味について」(講演) 今村仁司反証主義』小河原(こがわら)誠 『ポケット図解 構造主義がよ~くわかる本 人間と社会を縛る構造を解き明かす』高田明典(あきのり) 『社会問題の社会学赤川学 『逆説の法則』西成活裕(にしなりかつひろ)