アメリカの大統領選挙で不正があったのかどうかと、国民国家の自明性と自然さによる神話作用―境界線の揺らぎ

 アメリカの大統領選挙で不正があった。アメリカのドナルド・トランプ大統領はそう言っている。トランプ大統領が言うようにほんとうにアメリカの大統領選挙で不正はあったのだろうか。そのことについて、アメリカの国民国家(nation state)の自明性が失われているのが関わっているかもしれない。

 アメリカにかぎらず一般的にいって国民国家の自明性が失われてきている。これは世界がグローバル化していることによるのがある。グローバル化が進むことで国民国家の人為の人工の国境線が相対化される。

 国民国家は自然なものではなくて人為や人工のものであり、それからすると可変性をもつ。すべてがはっきりとしているのではなくて不明性をもつ。その可変性や不明性を隠ぺいしようとするのが自明性だ。国民国家は人為や人工のものではなくて自然なものだとする神話作用による見なし方だ。

 国民国家は表象(representation)であり、国民を代表する政治家もまた表象だ。政治家は国民を代表するのだとはいっても国民を置き換えたものだから国民と完全に一体のものとは言いがたい。なおかつ政党(political party)は部分(part)によるものだから、国民国家の全体を代表しているものとは言いづらい。集団である政党と個人の政治家は脱全体化されなければならない。

 国家主義(nationalism)では自国と他国のあいだにきれいな分類線を引こうとする。その分類線が引けなくなっている。分類線が揺らいでいることによる。きれいに分類線を引こうとするのであれば、近代になって人為や人工に生成された国民国家のことをあたかも自然なものだと見なす。そこにはたらくのが神話作用だ。

 表象として生成されているのが国民国家だといえるとすると、それはたとえば目の前にある果物のりんごのような触知可能さ(tangible)をもっているとは言えそうにない。だれにでもはっきりとわかるような自明性を持っているとは言えないのがある。

 触知可能ではないくらいに大きいものが国民国家だから、具体的にこれだとさし示すことができづらい。それを表象としてとらえることになる。いま目の前に具体のものとしてあるのであれば、これだとさし示すことができるが、それができづらいのがあり、そこから国民国家の記号表現(signifiant)と記号内容(signifie)が生成される。

 アメリカであればアメリカの記号表現がしめす記号内容があるが、その内容はかならずしも自明性によるのだとは言えそうにない。まったく完全な同一性をもっているとはいえず、それぞれの人によって差異性がある。記号は差異性によってなりたっているのもあり、アメリカであれば他国にあたる中国やロシアなどといったほかの記号との関係によってなりたつ。関係主義によればそう見なすことができる。

 関係主義では関係の第一次性があるとされていて、アメリカであればアメリカそのものが単独で実体としてあるのだとはいえそうにない。完全に揺らぐことのない核となる本質をもつものとして国民国家があるのだとは言えそうになく、本質が確固としてあるのだとは見なしづらい。

 国家主義による本質主義であれば本質が確固としてあることになり、それは疑うことができないくらいの自明性をもつ。本質主義によらないのであれば、本質よりも先立つものとして不明さがあることになる。近代に入ってから人為や人工で生成されたものが国民国家だから、そこに自然さによる確固とした本質があるのだとは言えないのがある。

 人為や人工で構築されたのが国民国家であり、そこから不変性ではなくて可変性によることになる。不変性であれば保守だが、可変性であれば革新であり、その古いのと新しいのとのあいだにせめぎ合いがおきる。時間が流れることが生成変化をうながす。国民国家の空間はいっけんするとたとえ変わっていないようであっても少しずつではあったとしても変わっているのがある。

 まったくもって昔から一貫して連続してあるのではなくて、そこには非連続の断層をもつ。切断線や断絶線がいくつも走っている。それまでの枠組み(paradigm)が通用しなくなることがおきて枠組みの変化と更新がおきる。枠組みがちがうとおたがいに話が通じづらい。枠組みが非連続であることから、かつてといまが完全に一貫して連続したものとしてあるとはできづらい。ずっと引きつづいている本質はありえづらい。

 参照文献 『現代思想キイ・ワード辞典』鷲田小彌太(わしだこやた)編 『現代思想を読む事典』今村仁司編 『思考をひらく 分断される世界のなかで』(思考のフロンティア 別冊) 姜尚中(かんさんじゅん) 齋藤純一 杉田敦 高橋哲哉 『ナショナリズム(思考のフロンティア)』姜尚中 『ポケット図解 構造主義がよ~くわかる本 人間と社会を縛る構造を解き明かす』高田明典(あきのり) 『空間と人間 文明と生活の底にあるもの』中埜肇(なかのはじむ) 『知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ』苅谷剛彦(かりやたけひこ) 『ブリッジマンの技術』鎌田浩毅(ひろき)