日本においてアメリカの大統領選挙が大きくとり上げられることと、日本からアメリカへの関心の一方的な交通の流れ

 アメリカの大統領選挙では、新しい大統領にアメリカの民主党ジョー・バイデン氏がつくことがほぼ決まったようだ。選挙のもようが日本の報道機関では大きくとり上げられていた。日本の国の政治はそっちのけといったところがないではない。ふだんでも日本の国の政治のことは報道機関の中であまりきちんと批判的にとり上げられているとは言えそうにない。

 日本の国内ではアメリカの現職の大統領であるドナルド・トランプ大統領に入れこんでいる人が少なくない。トランプ大統領の呼びかけであるアメリカをふたたび偉大な国にする(Make America great again)に呼応している日本人の人たちがいる。トランプ大統領を強く支持して応援している。

 日本の国内でアメリカの大統領選挙が報道機関で大きくとり上げられることや、日本の国内にアメリカのトランプ大統領を強く支持する人たちがそれなりにいることについてをどのように見なすことができるだろうか。

 日本は日本でアメリカはアメリカといったことではなくて、日本からアメリカへの関心の単交通がある。単交通とは交通において一方向の流れのものである。日本からアメリカへの関心の交通はあるが、アメリカから日本への交通はあまりない。

 日本ではアメリカの大統領選挙に大きな関心が払われるが、そのいっぽうでアメリカでは日本の首相がだれになるのかへの関心はほとんど払われないだろう。なので関心が単交通になっていて非対称になっている。

 日本とアメリカとでは関心が単交通になっていて、日本においては日本とアメリカがくっついている。日本が単独であるのではなくて、そこにはアメリカとくっついていてつながり合っている部分がある。このくっついている部分があるのは、戦後において日本とアメリカとでお互いに国どうしが談合し合って日本の国をつくり上げていったことが関わっているととらえられる。

 戦後において日本とアメリカがお互いに合作をし合って日本の戦後の体制がつくり上げられた。それを悪くいえばゆ着である。戦前や戦時中の日本の天皇制は意図的に温存されて戦後に引きつづいている。アメリカは日本を占領支配するさいに日本の天皇制を温存してそれを利用(活用)した。アメリカとソヴィエト連邦とで東西の冷戦がおきていて、日本はアメリカの西側の自由主義の中に引き入れられた。

 天皇制は戦前や戦時中において絶対的に権威化や神聖化されて日本の国を破滅にみちびく主となるもととなった。いまの天皇は国民の象徴だが戦前や戦時中の天皇は超越化されていた。臣民(しんみん)である国民は中心で超越の他者(hetero)である天皇によって駆動されていた。天皇の臣民だったのが国民だから、他者である天皇に駆動されることはあっても、自分から自発として駆動する自由はない。

 日本の人たちの中にアメリカのトランプ大統領のことを強く支持する人たちがいるのは、それぞれの人の自由だから悪いことだとはいえず、それぞれの人たちの自由に任されていることがらではある。その中で日本の国をとび越えて他国の大統領であるトランプ大統領のことを強く支持するのは、それが国家主義(nationalism)による超自我の虚焦点となっているからだろう。個人がもつ超自我が虚焦点であるアメリカのトランプ大統領に照射や投影される。

 精神分析学者のジグムンド・フロイト氏は、国家や国家主義についてこう言っているという。国家や国家主義とはそれぞれの人がもつ超自我が投影される虚焦点となるところだとしている。超自我とは自我の上位にあるものであり、自我にたいしてこうせよといった命令を下すものだとされる。

 人がまだ小さいころに、社会の中にあるこうするべきだとする決まりや何がよくて何が駄目なことなのかの線引きがすりこまれて内面化される。社会の決まりやよし悪しの線引きが内面化されながら人は社会化されて大人に成長して行く。それによって人はものごとを見分けることができるようになり、感じ分けや行ない分けや語り分けができる社会的な主体として形づくられる。感じ分けや行ない分けや語り分けは感性と行動と言語であり、学者の篠原資明(しのはらもとあき)氏による。感じ分けなどの分けは差異をあらわしている。

 国家主義によって国家をよしとすることが人の心の中にまで入りこむ。そのさいに日本とアメリカは単交通になっていて、日本からアメリカへといった関心の流れがあり、アメリカのトランプ大統領を強く支持する日本人がおきてくる。その逆はあまり見られない。日本の国をよしとしたりアメリカの国をよしとしたりする中でトランプ大統領を強く支持することがおきて、国が権威主義によって権威化されることになる。国からの呼びかけをすなおに聞く自発の服従の主体が形づくられる。

 参照文献 『あいだ哲学者は語る どんな問いにも交通論』篠原資明 『戦後日本は戦争をしてきた』姜尚中(かんさんじゅん) 小森陽一リヴァイアサン長尾龍一 『権威と権力 いうことをきかせる原理・きく原理』なだいなだ 『村上春樹柴田元幸のもうひとつのアメリカ』三浦雅士(まさし) 『現代思想を読む事典』今村仁司