与党である自由民主党の政権によるかたよった学者の選び方で、慣習や形式による不純な現実主義と、実質による純粋な理想主義とのつり合いやかね合いやつな引き

 首相が学者を任命するのは形式のものにすぎない。首相が任命の権利をじっさいにもっているのではない。日本学術会議の学者を選ぶのではそう言われていた。

 自由民主党菅義偉首相は、あたかも首相が日本学術会議の学者の任命の権利をもっているかのようなことをしたが、このことについてをどのように見なすことができるだろうか。それについてを、慣習や形式や小さい正しさと、実質や大きい正しさに分けて見てみたい。

 慣習や形式や小さい正しさ(法の決まり)は現実主義にあたり、実質や大きい正しさは理想主義にあたる。現実主義は下からの帰納で、理想主義は上からの演繹だ。

 現実主義の下からの帰納によるのであれば、だいたいの正しさが得られやすい。現実とは、たいていはだいたいの正しさしか得られない。それが限界だ。正しいのだとしても、それはあくまでも正しいだろうといったものにすぎず、まちがいのおそれを含みもち、不純である。理想主義の上からの演繹は、まちがいなく揺るぎない正しいことをとろうとするものであり、じかの純粋な正しさをとろうとする。

 これまでは日本学術会議の学者の選び方で慣習や形式や小さい正しさがとられてきた。それらが守られてきた。それを変えたのが自民党菅義偉首相の政権であり、その前の安倍晋三首相の政権だ。それを変えるさいに持ち出しているのが、実質や大きい正しさだ。

 菅首相やその前の安倍首相は実質や大きい正しさを持ち出すが、そのさいに気をつけないとならないのは、実質や大きい正しさを持ち出すと、いろいろな危険性がおきてくることだ。

 実質や大きい正しさの危険性とは、理想主義にかたむきすぎて、現実主義を無視することがある。実質や大きい正しさはかくあるべきの当為(ゾルレン)や大義だが、それらを持ち出すことによって、いろいろな声があることが無視されることになりやすい。たんに政治権力が正しいのだとなりがちになる。

 慣習や形式や小さい正しさは、あるていどこれまでに引きつづいて行なわれてきているものだから、少なくとも現実主義に根ざしているのがある。現実主義に根ざしているだけでは足りず、十分条件とはいえないから、理想主義とのつり合いをとることもいる。そのさいに、いきなり理想主義を持ち出して、現実主義を全否定するのはやりすぎだ。性急や急進になりすぎる。

 実質や大きい正しさを持ち出すと、理想主義にかたむくことになるが、それだと慣習や形式や小さい正しさをないがしろにすることになる。現実主義とのつり合いが崩れてしまう。現実主義とのかね合いをとる中で、現実主義にあたる慣習や形式や小さい正義が正しいことは少なくないし、理想主義がまちがっていることは少なくない。

 あくまでも政治権力がやっていることや言っていることは正しいことであり、それにしたがうべきなのだとしてしまうと、理想主義に大きくかたむく。現実主義とのつり合いが崩れて、二つの対立による緊張感がなくなる。その二つのあいだの対立の緊張感を持たせるためにあるのが法治主義(法の支配)や立憲主義(憲法主義)だろう。

 政治権力がいたずらに実質や大きい正しさを持ち出して、理想主義にかたむいて、当為や大義をとることになると、いろいろに危ないことがおきることがある。そのことを、歴史の具体の例から示してくれているのが憲法だ。その危ないことをおきないように防ぐためには、理想主義をもってしてよしとするのではなく、現実主義を持ち出すようにして、慣習や形式や小さい正しさを見て行く。現実主義によって、現実の実在のさまざまな声を見て行く。

 いきなり理想主義を持ち出して、実質や大きい正しさをとることによってものごとを進めて行くのは、危ないことになることがしばしばある。現実主義とのつり合いを崩す。より危険性が少なく安全性がわりあいに高いのは、現実主義からはじめるようにして、まずは慣習や形式や小さい正しさをなして行く。

 現実主義において、まずは慣習や形式や小さい正しさをなしたうえで、それらの中にまずいところや悪いところがもしもあるのであれば、ほんとうに負の部分があるかどうかを見て行く。そのときにはじめて理想主義を小出しに持ち出しながら、少しずつ改善や修正をして最適化して行く。少しずつ歩を進めていったほうがどちらかといえば安全性は高い。少しずつであれば、もしもまちがっていたさいに元に戻しやすく、現実主義に帰りやすい。理想主義でつっ走って行こうとすると、元に戻れなくなり帰れなくなり引っこみがつかなくなることがある。

 参照文献 『究極の思考術 あなたの論理思考力がアップする「二項対立」の視点十五』木山泰嗣(ひろつぐ) 『論理的な思考法を身につける本 議論に負けない、騙されない!』伊藤芳朗(よしろう) 『思考の「型」を身につけよう 人生の最適解を導くヒント』飯田泰之(いいだやすゆき) 『増補 靖国史観 日本思想を読みなおす』小島毅(つよし)