与党である自由民主党の政権が、社会関係(パブリック・リレーションズ)から見てやるべきだっただろう問題への対応のしかたと、それが現実には行なわれていないこと

 首相が自分たちの気に食わない学者を、日本学術会議から外した。このことについて批判の声がおきているが、与党である自由民主党菅義偉首相はいったいどういうふうに対応するべきだったのだろうか。

 菅首相がどういうふうにするべきだったのかを社会関係(パブリック・リレーションズ public relations)から見られるとすると、最初期重点対処の法則をあてはめるようにして、はじめのうちにできるかぎり大きな力を注いで何とかするようにするべきだった。

 はじめのうちにしっかりと力を注いでいって、全力に近いくらいにしっかりと労力をかけて何とかしようとすれば、まだ火でいえば小さめのぼやのうちに火をおさめることができたかもしれない。

 火でいえば小さめのぼやのうちに何とかするのではなくて、その火がしだいに大きくなってしまうと、おさめることができづらい。菅首相をかばおうとして、菅首相がやったことは悪くはないのだとか、よいことをしたのだとするのだとしても、そのように政治権力をかばうことが、かえって火に油を注ぐことになることがないではない。水ではなくて油を注いでしまう。かえって火が大きくなってしまう。そういう逆説がはたらくこともまたあるだろう。

 民間のトヨタ自動車で行なわれているような、なぜの問いかけをくり返し投げかけるようにして行く。それで問題の核が何なのかを掘り下げていって見つけて行く。その核のところに手を打つようにしたほうが片づけることができやすい。そうではなくて、表面の浅い現象のところに視点がとどまりつづけているのだと、有効な手だてを打つことができづらい。

 政治権力はまったくまちがうことがなく、つねに正しいものだとしてしまうと、無びゅう性によることになる。政治権力はまったく悪くはなく、悪いのは反対勢力(オポジション opposition)だとすることになる。アメリカのドナルド・トランプ大統領などはしばしばこうしたあり方をとっているが、これは修辞学でいわれる因果関係の議論において、因果関係の原因の当てはめがまちがっていることが多い。

 因果関係では、基本の帰属(特定)の誤り(fundamental attribution error)がおきがちだ。トランプ大統領のように、自分は悪くないとか、アメリカ(自国)は悪くないとして、ぜんぶ悪いのは反対勢力や他国だとするのは、基本の帰属の誤りであるおそれが高い。悪いことの原因を外に当てはめてしまっているが、それを内に当てはめてみることがなければならない。内とはトランプ大統領であり、時の政治権力であり、アメリカ(自国)である。

 日本の菅首相がやっていることに批判の声が投げかけられているのであれば、基本の帰属の誤りがおきないようにして、時の政治権力がまちがったことをやっていることをくみ入れて、そこを見て行く。その視点をとるようにして、悪いことの原因を時の政治権力に当てはめて見るようにして、その要因を体系として分析して行く。いろいろな要因を漏れなくだぶりなくの MECE(相互性 mutually、重複しない exclusive、全体性 collectively、漏れなし exhaustive)によって見て行く。それをできるだけはやいうちにやっておけば、核となる要因を見つけて行きやすく、有効な手だてを打って行きやすい。

 なぜの問いかけをくり返し投げかけたり、要因を漏れなくだぶりなくの MECE などによって体系として分析したりすることをおろそかにするのは、いっけんすると省力的だが、かえってものごとをこじらせることになりかねない。逆にあとでめんどうなことになることがある。時の政治権力が基本の帰属の誤りにおちいり、時の政治権力は悪くなく、自国は悪くなく、悪いのはぜんぶ反対勢力や他国なのだとしてしまうと、自国においてまちがった無びゅう性の神話がとられつづけて行く。その神話が修正されることが行なわれないままになってしまう。

 参照文献 『入門 パブリック・リレーションズ』井之上喬(たかし) 『コミュニケーションを学ぶ』高田明典(あきのり) 『トヨタ式「スピード問題解決」』若松義人 『逆説の法則』西成活裕(にしなりかつひろ) 『考える技術』大前研一 『議論入門 負けないための五つの技術』香西秀信 『クリティカル進化(シンカー)論 「OL 進化論」で学ぶ思考の技法』道田泰司 宮元博章 『「野党」論 何のためにあるのか』吉田徹