アメリカでおきている抗議の運動や声と、社会の中の呪われた部分―忘却(レーテイア)と想起(アレーテイア)

 アメリカでは、黒人の命も大切だ(Black Lives Matter)の抗議の運動がおきている。黒人の男性が警察から暴行を受けて死亡したことがきっかけとなっている。

 抗議の運動がおきて声があげられている中で、アメリカのドナルド・トランプ大統領がやらなければならないことがあるとすればそれにはどのようなことがあると言えるだろうか。

 トランプ大統領がやるべきこととして、アメリカの社会がかかえる、社会の中の呪われた部分に向き合うようにすることがいる。呪われた部分から目をそむけて、大統領は悪くないとか、大統領は正しいということをしつづけるのであれば、他を悪玉化することが行なわれつづける。

 アメリカが抱える社会の中の呪われた部分では、白人と黒人のあいだの対立がある。白人が優位とされて黒人が劣位とされてきた。そのことをさかのぼってふり返るようにして、悪いところを十分に省みるようにして、うしろ向きの視点をもつ。うしろ向きの視点をもち、うしろ向きの正しさをもつようにしなければ、前向きの正しさをもつことができづらい。

 社会の中の呪われた部分に目を向けるようにして、うしろ向きの視点をもつことでうしろ向きの正しさをもつようにして、それで前向きの正しさを探るようにして行く。それをやることを抜きにして、アメリカの大統領がやることや言うことは正しいとか、まちがいがないということにしてしまうと、ただ悪いところを他に押しつけるだけに終わるはめになり、大統領はあくまでも正しいのだということになりつづける。

 アメリカにおいて、白人は正しく黒人は正しくないといったことで、前に向かってつっ走って行くのではなくて、これまでの白人によるおかしいことを色々にふり返ってみるようにするのはどうだろうか。これまでを色々にふり返って見るようにすれば、色々なまちがいが行なわれたことがわかるはずだ。その負のことをくみ入れるとすると、白人は正しいとか優位にあるとは言いづらくなる。

 アメリカにかぎらず、日本においても、過去に行なわれたまちがいやおかしいことが十分にふり返られているとは言えそうにない。うしろ向きの視点がとられていなくて、うしろ向きの正しさがとれていないので、前向きの正しさもそれに影響されておかしくなっている。うしろ向きの視点が不十分だったりおかしかったりするために、相互作用がはたらいて、前向きの視点もでたらめになっている。きびしく言えばそう言うことができる。

 いそいで前を向くようにするというよりも、その逆にうしろを向いてふり返るようにして、これまでにおきたことで、どのようなことが隠ぺい(レーテイア)されているのかを見るようにして行きたい。隠ぺいされている色々な負のできごとを見つけるようにして行き、それをとり上げるようにして想起(アレーテイア)して行く。

 負のできごとにおおい(cover)がされているのをとり除く(discover)ようにする。これまでにおきた負のできごとをどんどんとり上げるようにして行き、そこにおおいがかけられて見えづらくなってしまっているのをとり除き、あらわにするようにして、それをくみ入れた形で、これからのあり方を探るようにして行く。効率が悪いようではあるが、そうすることは一つの手だろう。

 参照文献 『正しさとは何か』高田明典(あきのり) 『「他者」の起源(the origin of others) ノーベル賞作家のハーバード連続講演録』トニ・モリスン 荒このみ訳 「いま、敗者の歴史を書くべきとき(戦後五〇年目の年 日本の論壇)」(「エコノミスト」一九九六年一月二・九日合併号)今村仁司 『理性と権力 生産主義的理性批判の試み』今村仁司現代思想を読む事典』今村仁司編 『知の論理』小林康夫 船曳建夫(ふなびきたけお)