ブルーインパルスの飛行の記号表現と記号内容

 ブルーインパルスの飛行機が東京都の上空を飛んだ。この飛行は、医療従事者の人たちへの感謝の意味がこめられたものだという。

 医療従事者の人たちは、新型コロナウイルスの感染に対応するために大変な状況にあるから、感謝の気持ちをあらわすことはあったほうがよいけど、その表現のしかたとして、ブルーインパルスの飛行は適したものなのだろうか。

 ブルーインパルスの飛行は記号表現に当たるものだが、それがあらわす記号内容が、医療従事者の人たちへの感謝の気持ちだ。この記号表現と記号内容との結びつきには恣意(しい)性がありすぎる。結びつきの必然性がない。

 ただブルーインパルスが飛行しているのを見ただけでは、それが何をあらわしているのかはわかりづらい。一見しただけでは飛行機が飛行しているのにすぎない。それが医療従事者の人たちに感謝の気持ちをあらわすという記号内容をもつためには、上位の言語を持ち出すことになる。

 上位の言語で、医療従事者の人たちへの感謝の気持ちをあらわしているものとして見よ、ということがあってはじめて、ブルーインパルスの飛行の記号表現がどういった記号内容をあらわしているのかがわかる。

 感謝の気持ちをあらわすこととは別に、下からの声をすくい上げることがいる。現場からどういう声があげられているのかをすくい上げるようにする。その声の受けとめが欠けている中で、上から感謝の気持ちをあらわすのでは十分とは言えそうにない。

 上から感謝の気持ちをあらわすのは上部構造に当たるが、それよりも重要なのは、物質の不足の下部構造にまつわることだろう。過去をふり返ってみると、日本の戦前や戦時中では、上から押しつけられる観念の上部構造はあったが、物質の不足の下部構造は軽んじられた。下部構造については手を打たれることが少なかった。精神論が持ち出されて、がんばって耐えろということで、欲しがりません勝つまではとされた。最終に勝つことはなく負けることになった。

 日本のあり方では、戦前や戦時中に見られたように、物質の下部構造の不足を観念の上部構造でごまかすことが行なわれる。精神論などで乗り切ることがうながされる。そのさいに国家主義による感情の象徴(ミランダ)などが持ち出される。日本はすごいとかよいとかいうものだ。政治の権力によるカタリ(騙り)の手口だ。

 ブルーインパルスの飛行の記号表現が何をあらわしているのかというのは色々に見られるものではあるだろうが、記号内容としては、医療従事者の人たちなどに向けて、感謝の気持ちをあらわしはするけど、物質の不足などについては十分に面倒を見られないから、何とか精神論でうまく切り抜けてほしい、というのをあらわしているのではないだろうか。

 参照文献 『タイトルの魔力 作品・人名・商品のなまえ学』佐々木健一現代思想キイ・ワード辞典』鷲田小彌太(わしだこやた)編 『新書で大学の教養科目をモノにする 政治学浅羽通明(あさばみちあき)