複雑さを減らすことの二面性―順機能(プラス)と逆機能(マイナス)

 複雑なものを、わかりやすくする。複雑性を減らす。縮減する。政治の権力や経済の貨幣や表現における言語などは、そうした働きをするのだと、社会学者のニクラス・ルーマン氏は言っているという。

 複雑性を減らすのには、正と負の二つの面がある。複雑性が減ることによってわかりやすくなるという正の面があるが、単純化することの弊害がおきるという負の面がある。

 複雑な現実がある。そこから、複雑な人間や複雑な人間の集団となる。この複雑性を減らすと、単純化された現実となって、人間や人間の集団が単純化される。

 哲学者の仲正昌樹(なかまさまさき)氏によると、物語には通用性と安定性があるという。この二つは両立しづらい。通用性を高めると安定性に難がおきてくるし、安定性を高めると通用性に難がおきてくる。広く通用させようとすると、世の中にはさまざまな人がいることから安定しづらい。しっかりと安定させようとすると、せまく閉じた限定されたところでしか通用しづらい。

 複雑か単純かという分け方は、それそのものが単純なものだから、よくないものではあるかもしれない。二分法ではなくて、複雑さもしくは単純さのていどのちがいにすぎないのはあるが、できるだけ複雑さを保つようにするのはときにはいることだろう。複雑さがなるべく損なわれないようにして、単純ではないものとして現実や人間や人間の集団を見なす。複雑な系である複雑系としてものごとを見なすことも有効だ。

 参照文献 『なぜ「話」は通じないのか コミュニケーションの不自由論』仲正昌樹 『できる大人はこう考える』高瀬淳一 『波状言論 S 改 社会学・メタゲーム・自由』東浩紀(あずまひろき)編著 『「複雑系」とは何か』吉永良正