令和における、令と和の字の意味

 新しい元号となったのが令和だ。この令和を英語圏の人が英語に訳すと、Order and Peace となるという。それとはちがい、いまの首相による政権は、英語の訳として、Beautiful Harmony とするべきだと言っているようだ。

 Beautiful Harmony というのは、たとえば美和というのだったら成り立つかもしれないが、令和から自然に出てくるものだとは必ずしも言いがたい。また、Beautiful Harmony だと、形容詞と名詞のようなことになるから、令が和を修飾することになる。令と和が並列であるのなら、接続詞の and を入れて、Beauty and Harmony としたほうが適した形になりそうだ。

 英語から日本語に、逆から見てみると、Order and Peace から令和というのはまったく連想できないほどのものではない。Beautiful Harmony から令和を連想するのは、日本人であってもそう易しくはないかもしれない。

 テレビ番組では、大学の教授が、漢和辞典を引くことを根拠にして、令の字にはあまりよい意味がないということを言っていた。たとえば、巧言令色すくなし仁ということが言われる。巧言や令色は仁からは遠いということである。仁から遠いということでは、いまの首相による政権はまさにそうだというのがある。不仁となっているのだ。

 令という字には、美しいという意味があって、それで Beautiful ということなのだろうが、ぱっと令の字を見て、それで美しいという意味が思い浮かぶのだろうか。令の字の第一義は何かということが関わってくる。

 美の字なら美しいということだろうが、令の字は命令ということがまず個人的には思い浮かぶ。だから Order というふうにしてもそれほど誤りとは見なしづらい。かりに令の字を美しいととらえるにしても、みながうなずく最大公約数と言えるものとはしづらいかもしれない。

 令の字が美しいことをあらわすというのは、外示(デノテーション)としてふさわしいかどうかには疑問符がつく。外示はその語が一般として直接にどういう内容をさし示すかだ。かりに、令の字が美しいということをあらわすのにしても、共示(コノテーション)として、命令や決まり(律令)といったような意味を含みもつ。共示は、外示にともなって暗に示される、間接や従属の内容だ。

 令和の和について、これを Harmony とするのはどうなのだろうか。ちょっと引っかかるのはある。ハーモニーというのは、互いに異なる個がいて、互いに異なっていながら調和するということだろう。いまの日本の社会には、ちがいを認めないという画一や同調の圧力の空気が強いのではないか。個というよりも、関係のほうが先立っている。平べったい同質の和(とそれによる拘束)はあるかもしれないが、立体による、個のちがいがありながらの西洋に見られるような調和というのは成り立ちづらいし、見あたりそうにない。

 参照文献 『クラシックを聴け!』許光俊 『そうだったのか現代思想小阪修平