いままでは北方領土は固有の領土だと言っていた(言えていた)のからすると、それが言えなくなったのは、後退していると見られる(あとでばん回して大きく前進するのだろうか)

 北方領土は日本の固有の領土かどうか。そうたずねられた政府は、答えをさし控えるとしている。ロシアとの今後の交渉にさしさわりがあるかもしれないからだという。日本の政府は、北方領土や、固有の領土ということを、言えなくなってしまっているようである。そう呼ぶことをロシアからいましめられているようだ。

 あることをどう呼ぶか(言うか)は、一つの武器になるものである。その武器を日本の政府は使えなくさせられてしまっていると見られる。北方領土や固有の領土とは呼べず、それを避けてほかの言い方を使うことをさせられている。言い方を制限されているのだ。

 ささいなことではあるかもしれないが、あることをどう呼ぶかは、ある記号内容(シニフィエ)についてどういった記号表現(シニフィアン)を用いるかだ。どういった記号表現を用いるかによって、それによってさし示される記号内容は微妙に異なってくることがある。有利になったり不利になったりしてくる。

 ロシアにおける制度と、日本における制度があって、日本の政府は、日本の制度を自由に使わせてもらえなくなっている。ロシアの制度を使えとまで言われているのかどうかはわからないが、日本の政府が日本の制度による言い方である、北方領土や固有の領土というのを使うのを制限させられている。これは、ロシアが日本を上回ろうとする手だてにたいして、日本がそれをのまされてしまっていることを示していると見られる。この心配が当たっていなければよいが、もし当たっているとしたら、あまりよい結果にはつながりそうにない。

 言い方や呼び方ではなく、定義づけとして、北方領土は日本の固有の領土だという定義を日本がとれなくなっているととらえられる。領土を画定するのは、定義づけをすることに通じるのがある。北方領土は固有の領土だとしていたのが、そう言えなくなっているのは、他国であるロシアによって日本の定義を変更させられているということをあらわす。本当に変更させられたのではなく、かりのものではあるかもしれないが、譲歩してよいことなのかどうかは問題である。

 参照文献 『できる大人はこう考える』高瀬淳一