仮定として、日本とロシアのやり取りが失敗することはあるから、必ず成功するとは言えそうにない(どうしても失敗できないとなると、やり取りにおいて、かえって悪循環や泥沼にはまることもある)

 日本とロシアとの関係をのぞましいものにする。ロシアから日本に北方領土を返してもらう。平和条約を結ぶ。これまでにおいて日本ではできなかったことをやるつもりだ。いまの首相は決意としてそうしたことを言う。

 首相は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と何回も会っている。それでお互いの首脳どうしの信頼関係ができ上がっているのだと言う。これをもってして、ロシアから日本が北方領土を返してもらうことをのぞむことはできるのだろうか。

 一つには、日本とロシアとのやり取りを、交渉として見られる。交渉として見れば、日本がいくら強い意気ごみをもっていたとしても、それによってものごとが決まるのだとは言いがたい。日本だけでは決まらず、ロシアがどうかというのが関わってくる。決定権が日本だけにはなく、ロシアにもまたある。ここが、日本だけによる意思決定とはちがう点だろう。

 日本とロシアのどちらに弱味があるのかというのは見逃しづらい。どちらに弱味があって、どちらに強味があるのかは無視できないところだ。どうしてもロシアから日本が北方領土を返してもらいたいのだとすると、日本は前向きだがロシアは前向きではない(後ろ向きだ)ということになることがある。

 前向きであるというのは、日本がロシアにお願い(要求)する立ち場になるので、日本が弱味をもっていると見なせる。逆にロシアは日本からお願い(要求)されるということで、強味をもっていると見なすことができる。ロシアは日本からのお願いを受け入れるのではなくて断ることができるのが強味だ。日本からのお願いを断っても(現状維持になるので)ロシアには痛手にはならない。

 相手を満足させられるものを持っている方が有利になる。ロシアは日本を満足させられる、北方領土の返還の切り札をもつ。この切り札は、ほんらいは日本の領土だったものなので、日本に返す義務をもつものなのは確かだ。

 満足させられるものを持つという点で言うと、ロシアが持っている、北方領土の返還の切り札に肩を並べるくらいのものを、日本は持っているのだろうか。それを持っていないと厳しいのではないだろうか。

 正しさという点で言えば、もとは日本の領土だったのだから、ロシアは日本に北方領土を返すのみならず、千島列島の全体を日本に返すのがふさわしいと一つには見なせる。この正しさをロシアに分かってもらうためには、たんに日本とロシアの首脳どうしがお互いに何回も会って信頼関係があるというのでは頼りない。

 首脳どうしの信頼関係に頼るのではなくて(それで片づくのならそれでもよいが)、それとは別に、そうとうな知識や情報によって、高い説得性をもってして、いかに日本がロシアから北方領土を返してもらうのがいるのかというのを、客観として立証することがいる。それに加えて、交渉をうまく行なうために、日本が弱味をもたず、ロシアが強味をもたないようにことを進めて行かないとならない。

 首脳どうしの(何回も会っていることによる)信頼関係というのとは別に、日本とロシアの信頼関係ということでいうと、お互いの価値がすり合っていないと信頼し合うのは難しくなる。お互いの価値がずれているのであれば、信頼し合っているとは言いがたい。日本の国の中や、外において、いまの首相による政権が、信頼してもよい相手なのかどうかということが問われている。信頼できない相手だと見なされることになれば、溝や隔たりができることになる。