誤植や表現を改めたというのはごまかしで、最初のほうに本を買った読者からの批判の指摘を断りなくとり入れて手がらにするのは、当たり前のことではないだろう

 本を増刷するさいに、誤植や表現を改めるのは当たり前のことだ。それのどこがいけないのか。出版社の社長はツイッターのツイートでそう言っていた。

 たしかに、増刷のさいに誤植や表現を改めるのは、当たり前とも言えるもので、やってはいけないことではないだろう。しかし、ないほうがのぞましいものであるのは確かだ。ないに越したことはない。たんなるうっかりのまちがいなのよりもさらにひどいのなら、なおさらよいことではない。本をつくって、とりあえず売ってみて、読者からの反応を受けて、売りながら本の内容を正す、というのは、完成品を売っていないのであって、まっとうな本の売り方とは言えそうにない。

 本を出した出版社には、本を出したことにたいする責任がある。本を買った読者とのあいだに因縁がおきている。因縁があるのだから、本を買った読者からの声が、たとえ出版社にとって都合が悪いものであったとしても、その声を無視するのではなく、できるだけ向かい合うようにすることがのぞましい。それが応答責任を果たすことだろう。

 新しく出た愛国の色合いが大きい歴史の本では、誤植や表現を改めたというよりも、本を買った読者からの批判の指摘をとり入れて、内容を改めたと見られている。内容を改めたことの立て役者は、本を買って批判の指摘をした読者である。この批判の指摘をした読者に労を報いないのであれば、出版社や作者は搾取していることになる。

 最初のほうに本を買って、批判の指摘をした読者は、出版社や作者から搾取されて、ただで利用された。これは不正と見るべきではないだろうか。

 新しく出た愛国の色合いが大きい歴史の本は、最初のほうに本を買った読者からの批判の指摘を増刷するさいに無断で勝手にとり入れている。それに、この本では、ウェブのウィキペディアなどから引用があちこちにあって、その量は少なくとも全体の二.五パーセントに達するのだという。これらのことからすると、この本の著者に当たるのは、一人の人物というのではなく、ウェブのウィキペディアもそうだし、それに最初のほうに本を買った読者も含まれるだろう。共同の著者だ。

 同一性という点で言えば、最初に出された本と、増刷したさいに内容をそれなりに改めた本とでは、はたして同一なものと見なせるのだろうか。増刷してあとになって出されたもののほうが、最初のころのものよりも、より中身がよくなっているのである。同一性が崩れて、差異があることになる。中身がちがうのに、同じ名前と同じ値段で同列に売られているのは変なことだ。

 差異があることによって、最初のほうを買った人は損をしていて、新しく出たのを買った人は得をしている。不公平や格差がおきてしまっている。なぜ不公平や格差がおきているのかといえば、それは出版社や作者に非があると言うべきだろう。最初のほうに本を買った人は、損をしているのだから、その損を埋め合わせる何らかの対応がとられないのであれば、不つり合いのままなのが放っておかれる。

 この不つり合いを改めるには、最初のほうに本を買った読者に謝罪をして、新しく出た本と交換するか、代金の全額を返金するか、内容のどこを改めたのかすべてつまびらかにして分かるようにすることがいる。それらをまったくしないというのは、最初のほうに本を買った読者をダシにして、それでお金をもうけていることになるから、正しいお金のもうけ方とは言えそうにない。

 出版社や作者は、読者にたいして本を売ったのだから、そこに因縁がおきているので、読者からの声に応える応答責任を果たすことができればよい。最初のほうに本を買った読者が、おかしいことだということで声を発しているのなら、それを受けとめることがあってほしいものだ。もし出版社や作者がまともに声を受けとめないつもりなのであれば、最初のほうに本を買った人の不満や怒りを軽んじていると見るしかない。

 それなりの額のお金を出してものを買って、おかしいことがあったのなら、それに怒るのはまちがったことではないだろう。ものを売った出版社や作者は、最初のほうに本を買った読者の不満や怒りを受けとめて、おわびをするべきである。そのさいに、出版社や作者は、おわびということを何段階にも分けて、きちんと読者の不満や怒りがおさまるまで、おわびをつづけるようにすることがのぞましい。

 本がなかなか売れない時代なのがあるので、出版社や作者には厳しいことを(上から目線で)言ってしまっているのはある。厳しく響くかもしれないが、本を売るさいのやり方がおかしいのであれば、それを売り抜けるのを見すごすことはできづらい。最初のほうに本を買って損をした読者におわびをする必要がある。そのおわびの重要性があるので、それを何段階にも分けて行ない、損を埋め合わせて、読者の不満や怒りを解消するようにしてもらいたい。