私小説の同一性と差異

 私小説というのは、自分の過去を反すうする。その反すうすることの面白さがある。面白いとは言っても、つくるほうにとっては、面白いとばかりは言えず、自分をさらけ出さないとならない。成功した話ではないとすると、恥や失敗をさらけ出すことになるので、その苦痛を乗り越えることがいるのはある。

 私小説では過去が反すうされるが、まったく忠実に過去を再現することはできない。過去の自分の人生におけるできごとや経験との同一性はあるが、まったく同じようにくり返すことはできないものだ。物語の形式に当てはめないとならない。そこで生のものが変形を受けることになる。細かいところでちがいがおきてくる。同一性がありながら、差異があると言える。