日本の利益がロシア(他国)の利益になるといったような、ぴったりとお互いの利益が合っているのであれば、信頼関係はあるだろうけど、そうではないのだから、不信によるといったほうがよいのではないか

 年内に平和条約を結ぶ。何の前提条件もなしにそれを行なう。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、会談の中でそれを提案したという。会談の中でふいに思いついたものだという。首相はそれを受けて、ほほえみながら応じた。その場ですぐに否定はしなかった。

 年内に平和条約をロシアと日本が結ぶと、北方領土が日本に返ってくる見こみは基本として無い。見こみはうすい。そう見られている。

 プーチン大統領との個人的な信頼関係がある。首相はそれをもとにして、北方領土の日本への返還を目ざしている。プーチン大統領とのこれまでの会談は二二回にのぼるという。会談の回数を重ねれば重ねるほど、北方領土の返還は近づいてくるのかといえば、そうとは言えないもののようだ。

 プーチン大統領との個人的な信頼関係とはいっても、それは北方領土の返還にどれくらい役だつものなのかが疑わしい。信頼関係があることを根拠にして、北方領土の返還につながるのかというと、そのがい然性は高いとは見なしづらい。まず信頼関係があるのかが定かではない。かりにそれがあったとしても、北方領土の返還とはまた別だということがある。

 首相は日本のために動くことはあっても、ロシアのために動くわけではない。結果としてロシアを利するような動きをしてしまうことはあるかもしれないが。それと同じように、ロシアもまた、ロシアのために動くことはあっても、日本のために動いてくれるとは考えづらい。その考えづらいことがおきないと、日本に北方領土が返ってくることは見こみづらいのがある。

 日本は利他ではなく利己で動く。それと同じように、ロシアも利他ではなく利己で動く。お互いに国益のために動いているから、ロシアが利他で動かないかぎりは、日本に北方領土が返ってくる見こみはそこまで高くはない。現状では、ロシアが北方領土を実効支配していて、その現状を維持する(ステータス・クオ)かまたは強化するのがロシアにとっての利己である。それを日本にゆずるために変えるのが利他となる。

 個人的な信頼関係をもとに、日本に北方領土を返還するようにロシアにうながす。これは日本にとって利益が高いのを目ざすものだが、そのかわりに危険性もまた高い。危険性が高いので、ロシアにしてやられるおそれがある。この危険性を避けるのであれば、高い利益を目ざすのではなく、低い利益を目ざすようにすることがいる。利益は低いけど危険性もまた低いというものだ。

 首相は外交でほかの国の長と信頼関係を築いているというが、それをもってして日本にとって利益の高いことを目ざすのは、その裏に高い危険性もついてくる。信頼関係があるかどうかは定かではないのだから、利益の高さの裏にある危険性が低くなるわけではないだろう。危険性は帳消しにはならない。

 信頼関係というのは、時間の流れをくみ入れると、安定したものだとは必ずしも言えない。時間は変化のもとである。不確定(不確実)な要素にたよるのではなく、それを抜きにして、利益と危険の比例をふまえてものごとをやって行く。そうするほうが、あやふやな信頼関係によるよりも現実的なのではないか。

 もしかしたら、信頼関係でものごとが動くのぞみはあったし、今もまだ少しはあるのかもしれない。あと出しじゃんけんによる卑怯な意見ではあるが、素人としては個人的には、北方領土での首相の外交はそこまで成功しているとは言えそうにない。