硬い場所で転んだのではないのでまだしもさいわいだ

 ゴルフ場の砂地で、ひっくり返ってみごとに転ぶ。砂地が上り坂になっていて、上がりきった芝の面の傾斜に足をとられてごろんと体がうしろに転がった。転がってしまったのは、自由民主党安倍晋三首相である。首相はアメリカのドナルド・トランプ大統領が来日したさいに、いっしょにゴルフ場でゴルフをやってもてなした。そのさいのできごとだ。

 トランプ大統領と側近の人は、芝の上を歩いている。それをあとから追いかけようとして急いでいたので、上り坂の砂地を上がったところの芝の傾斜に足をとられてしまったのだろう。小走りであわてていたためである。気を入れてトランプ大統領をもてなしているさなかであり、おそらく気を抜いていたのではない。

 空中から撮られた動画によって、世の中の知るところとなった。この決定的瞬間は、もし動画を撮っていなければ世の中の知るところとはならなかったものだろう。この動画による情報が、はたして国民の知る権利にあたるのかどうかはわからないけど、政府はこの動画を歓迎はしていなさそうだ。ほうっておくと拡散して定着しかねないので、何らかの手を打っているかもしれない。

 首相は転ぶのにおよそ似つかわしくない。格が高い。そうした人が転ぶことにより、似つかわしくないとされる人が似つかわしくないふるまいをすることによるおかしみみたいなのが生じることになる。文豪の夏目漱石は、面白さの一つのあり方として、不対法というのを言っているという。これは期待と裏切りのようなものである。社会でそれなりの地位にいる人なんかが、その地位にふさわしくないことをすることにより、面白くなるというものがそれに当たる。謹厳実直で知られている人が、くだけたことを言ったりやったりすると落差がおきるのでおかしみがある。

 首相というのは一国の長であり、えらい人であるとされる。そのえらさに似つかわしくないようなふるまいをすることで、ともすると面白さが生じる。お笑いでは、元々えらさを持っていることで、ふりがきいているので、落ちやすいのがある、とビートたけし氏が言っていた。えらさに比例して、てこの原理がはたらく。元々もっている社会の価値が高いのがあり、その価値がふいに下がることで、ふつうのどこにでもいる人と同じようになり、面白くなる。受けとる人にもよるけど、そうしたのがあるかもしれない。