直接に抗議するために現地へおもむくべきか

 北朝鮮の国民の人たちは、いちじるしく人権が損なわれてしまっている。ゆえに、人権をよしとするのであれば、その人は、ただちに北朝鮮へ行き、自分の命をかけて人権を擁護する運動をするべきだ。独裁政権への反対をしにゆくのがふさわしい。この意見は、正直いって、痛いところをつかれたという気がする。

 痛いところをつかれたとは思えるのだけど、しかしこうも言えるのではないだろうか。たとえ、北朝鮮独裁政権へ抗議しに行くべきなのだとしても、それはあくまでも理想にとどまる話なのではないか。理想ではまったくもってそうだけど、現実はまたそれとはちがっていてもよい。これは理想と現実のずるい使い分けであり、ほめられたことではないのはたしかではある。

 理想を現実化することが理想ではあるだろうけど、いっぽうで現実というのは妥協の産物でもある。妥協することが必ずしも悪いとは言い切れない。これは言い訳にすぎないのはたしかだけど、言い訳をしている人に人権が与えられないというのではないのもたしかだ。くわえて、言い訳をしていたとしても、それと並行して、人権をよしとする主張をしてもかまわない。表現の自由があるわけだし、とくに公共の福祉に反するわけではなさそうだ。唯一の絶対正義であるかはともかく、正義の一つだとして訴えるのはありだろう。

 現実による直接行動をとるのもよい。しかし、そのさい、武力などの力を行使するのはあまり賛同できそうにない。力を行使するための大義名分として、他国の政府による(その国の国民への)人権侵害を正すのを持ち出すこともできる。この大義名分に、欺まんがまったくないとは言えないだろう。武力などの力というのはできるかぎり使わないに越したことはないわけだから、それを使うための建て前として人権を持ち出すことにはあまり賛成できない。武力などの力の行使は下策であり、話し合いなんかによる説得のほうが上策だという気がする。甘いことを語るなと言われるかもしれないが。