金利と産業

 銀行にお金を預けても、金利がほとんどつかない。これについては、現代の徳政令のようなものであるという見かたもとられている。預貯金の金利を低く抑える政策がとられてきて、今にいたるのだという。これによって、銀行が守られるわけだ。企業にもプラスにはたらく。かりに銀行の経営が危うくなっても、公的資金という名の税金によって穴埋めされる。大手銀行の場合はそういうふうになるだろう。

 海外と比べても、日本の銀行の預金の金利は低いから、それをいぶかしむような意見も目にしたことがある。日本にずっと住んでいる人はそのことには気がつかない。しかし、海外に出てゆく人は気がつくわけである。なので、海外の銀行なんかにお金を預けたほうがよほどよいという意思決定を、合理的に下す人もなかにはいる。

 あくまでも経済についての素人からの意見ではあるんだけど、銀行の預金の金利があまりにも低いから国内の景気があまりよくないのではないか。そういうふうに感じる。もっとも、今の日経平均株価の高さは官製相場という面もあるので、それは別にしてというわけだけど。そうしたふうに見てみたい気がする。というのも、もし金利がそれなりに高ければ、人はお金をたくさん使うようになるのではないか。そして、お金を貯めるべく、労働に精を出してよくはげむようになる。

 金利の低さと経済の調子の悪さを、相関させて見るのは必ずしも合ってはいないおそれがある。いま金利は低いわけだけど、経済の調子は決して悪くはない。失業率の数値も低いではないか。そうした意見も出すことができる。なので、少なくともそこは慎重に見ることをしないとならない。うかつに判断すると皮相的になることはまちがいない。

 かんたんに言ってしまうと、銀行の預金の金利が低く抑えられているのは、それなりの合理性もあるみたいだ。それは、多額のお金を銀行に預ける預金者には不都合ではあっても、資本主義の理にはかなっているのである。産業の面においては、なによりも資本の再生産がいちばん大切である。そのためには、お金をまず投資に回すべきであり、企業がお金を借りやすいほうがよい。金利が低いと、企業がお金を借りるのに都合がよくなる。

 専門家から見たらもしかしたら間違っているかもしれないけど、そういう事情があるそうなのである。しかし、いくらそうして産業資本主義の理にかなうように低金利の政策をやったとしても、日本は依然としてデフレを脱却できていない。これはなぜなのか。

 デフレを脱しきれていない要因はいろいろあるだろうけど、ひとつには、日本人はとりわけ古い商人的心性を潜在的に根強くもっているためかもしれない。前近代性だ。この心性は、お金である貨幣にたいして強い愛着をもつものだという。経済学でいわれる、流動性(お金)への選好である。財布のひもがなかなかゆるまない。だから、企業においても内部留保が改まらないのではないか。