非対称な礼

 柔道では礼に始まり礼に終わる。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は日本の武道である柔道を身につけていることでも知られている。つまり礼を体で知っている人物だということだ。だから礼はまちがいなく守るのだと、ロシアにくわしい政治家の鈴木宗男氏はラジオで語っていた。

 日本の山口県で開かれる日露会談には、プーチン氏はおよそ 3時間ほど遅れて現地に到着した。これでもはたして礼を守るといえるのかというとどうもいぶかしい。少なくとも時間通りに来ないといけないのではないかな。事情があってやむなくであるのならしかたがないだろうけど。

 ロシア時間なんていうのがあるみたいで、時間に遅れることにそれほど神経を使わないそうなのだ。意図して遅れてくることで、相手をはぐらかし、自分のペースに巻きこむことができるため、戦略のひとつとして使っているとも見られている。

 日本とロシアでは文化圏がちがうため、日本でいわれる礼の精神を期待するのはいささか無理がある。異なる文化であれば、こちらの常識が通じないこともあるだろう。そうしたなかでお互いのもくろみを通そうとするのだから、ひと筋縄ではゆかなくても不思議ではない。

 少しでも相手にたいして不信感が残ってしまうようだと、ものごとはうまく進まないものなのだそうだ。いったいに国家の姿勢は保守的なところがあるから、なかなかこちらの思っているようには相手は首を縦には振りづらい。極端にいえば、外交とは、問題の棚上げ(先送り)か戦争かのいずれかであるともいわれる面もある。

 棚上げでなければ戦争だとなると、かなり極端ではある。その中間の領域も見のがせない。棚上げするにしても、なるべく気を長くして見ることがいる。相手が実効支配しているとなると、返してもらえるのぞみは高くなく、つい焦りがおきる面もあるだろうが。そこをつけ入れられてしまうとまずい。

 したたかさとずる賢さにおいては、今回はプーチン氏にうまく技あり一本をとられてしまったかな。息を合わせると見せかけて、だし抜いて技をしかけた。目測のはかり方がうまいといわざるをえない。共同経済活動は、うまくゆけばよいが、そうでなければ必ずしも領土問題の進展にはつながらないだろう。